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思ったより降っていた雨に足元を濡らしながら駅近くのお店で定食を食べて、店の出口で短くお休みの挨拶をする。
明日は仕事なので帰ります、って言い訳みたいに言って星崎くんは雨の中帰って行った。
少し会釈をして去って行く傘と、その下に覗く彼の背中を目で追っていた。
最近、恋愛対象が男であるせいで困った事はないけど、部屋の中以外で触れないのは案外寂しい。
別れ際にいつも少しためてから「じゃあまた」という星崎くんの口元を思い出した。キスとまではいかなくても、抱き寄せたくなることだってある。
そう思っているのは自分だけじゃなければいいな、と思う。
じっと立ち止まって見送っていると道行く人が横目で見ていた。濡れた傘をもう一度開いて雨の中を歩き出せば、もう誰も僕のことを気に留める人はいない。
やりかけで放り出してきた仕事が家で僕を待っている。
白とピンクとドレスのファンタジーワールド、結婚式のパンフレットだ。
現実世界では社会のしがらみに惑わされている僕が、あらゆる妄想と願望を結婚という幻想でデコレーションしてゆくのだ。
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