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「いい日だなー」
あまりにもご機嫌すぎるフィレルに若干呆れつつも、ロアは何事もなかった旨をファレルに報告するために移動しようとした。
その時だった。それが見えたのは。
――フィレルが壁に掛かっている肖像画に手を伸ばし、実体化させようとしていた。
絵心師はどんな絵でも実体化させることができるが、人の絵を実体化させるのは禁忌中の禁忌である。
なぜならその行動によって、同じ人が二人存在してしまったり、ときには死者さえ蘇らせたりしてしまうことがあるからだ。
いくら馬鹿で能天気なフィレルでも、それを知らないはずがないのに。
「――やめろ馬鹿っっっ!」
あわてて身をひるがえし、止めようと伸ばしたロアの手はあと一歩のところで届かず、フィレルの身体を突き飛ばすだけに終わった。
白い光が爆発し、あらゆるすべてを呑み込んだ。
「――ロア、大丈夫? ロア、ロアったら! 起きてよ、ねえ!」
「…………っ」
フィレルの緊迫した声に、ロアはゆっくりと身を起こす。どうやら短時間気絶していたらしい。
「オレは別に大丈夫だが……。フィレル! 貴様、なんてことしてくれたんだ!」
「ロア、倒れてたんだもん。すっごく心配した……」
「それは悪かったな。オレが無事だとわかったんなら、状況を整理するぞ。まず貴様が呼び出したのは誰だ?」
「誰って、あの人。彼女、実在したんだね! すごいや!」
フィレルの指し示した方、事態を理解できずにぽかんとする少女を見て、ロアは石のように固まってしまった。
少しウェーブがかった背中まである茶髪、気の強そうな吊り目がちの赤い瞳。その手には鈴のついたロッドが握られている。
――「崇高たる舞神」、封神のフィラ・フィアだった。
「フィラ・フィアって、実在したんだ……!」
「『実在したんだ』じゃないだろう! いいから戻せ!」
「え? 言ったじゃん。絵心師は取り出すことしかできないってさあ」
「頭痛がする……」
ロアが思わず額に手をやった時だった。聞きなれない、気の強そうな女の子の声が聞こえた。
「ここはどこ? あなたたちは誰? エルステッドは、ヴィンセントはどこ? 一体何が起きているの?」
それまで黙っていたフィラ・フィアが、警戒心をあらわにして問いかけた。
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