プロローグ 戦神の宴

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「――シルークっ!」 ――白蝶の使い手に守られて。  振り返ればシルークは、彼女の旅の大切な仲間は。  ぐったりとして動かなくなっていた。背中から滝のように血を流して。  その位置はゼウデラが放った刃とフィラ・フィアとの、ちょうど真ん中。  彼に纏わりついていた白い蝶は、灰となって消えていく。 「――――嘘」  フィラ・フィアはへたりこんだ。 「そんなっ! シルークっ! 嘘、嘘よっ! 何で……どうして……っ!」  フィラ・フィアを守ったその身体は冷たく、やがて無数の純白の蝶となって足の先から崩れゆき、天へと昇っていく。  大切なものを失いたくなかった、守りたかったんだ。だから旅に出た、のに……。 「わたしを守って消えちゃうなんて、本末転倒じゃないの……っ! シルークの馬鹿……っ!」 《みんなが笑って暮らせる世界を、守りたかったから》  望まぬ力と引き換えに喋れなくなったシルークは。かつて蝶の魔法でそう言った。 《僕はこれまで多くの人々を殺してきたけど……。世界を守ることで、僕は罪を償う。……自分勝手な免罪符に過ぎないよね》  それでも助けてくれたから。あまり多くを語らずとも、友となれたから。  彼と過ごした短い時は、幸せだったんだ。 ――なのに。 「ゼウデラあぁぁぁっ! この、奪うばっかりの戦神がぁっ! 返しなさいよねえっ! シルークを、返してったらっっっ!」  白い蝶は天空へと還り、シルークはフィラ・フィアを守って命を散らした。 「もう奪うのはやめてっ! わたしに返してっ! あなたが奪ったものすべてっ! これ以上の放埒は、許さないんだからっ!」  何度も大切なものを失ってきた。そのたびに泣いた。失うたびにその心は幾重にも引き裂かれ、涙の洪水におぼれようともその傷はいやせない。  失いたくなかった、守りたかった。けれど守ろうとすればするほど、大切なものは失われていって。  自分が「奇跡の子」でなかったら。彼女は何度もそう思ったけれど、自分がすべてを放棄したらもっともっと失われていくとわかっていて。  時に運命を呪い、自分を憎んだ。生き残ってくれた三人だけは絶対に守りぬくと、心に誓って。  嗚呼、しかし。運命はなぜここまでも、残酷なのか。  心の欠片を失って、フィラ・フィアはもう、動けなくなっていた。  そこへ。 「――避けろフィラ・フィアっ!」
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