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「えっ……?」
ぞぶり。何かが自分の体に沈みこみ、貫くおぞましい感触。
「フィラ・フィアああぁぁぁぁぁ――――っっっ!!」
赤く染まっていく視界の中、エルステッドの悲鳴を遠くに聞いた。
もう痛みは感じなかった。ああ、死ぬんだ。先ほどよりもさらに冷たく重い認識が、彼女を包み込んだ。
シルーク、ごめん。あなたが命を賭してまで守り抜いてくれたわたしは、その甲斐むなしく、死ぬんだ。
ずしゅっ。重たい音を立てて、自分を貫いた白獅子の爪が身体から抜かれた。
何の抵抗もなく背後に倒れていくひどく重たいこれは。果たしてわたしの身体なのだろうか。
「フィラ・フィアっ! 死ぬな、フィラ・フィアっ! お前は最後の希望なんだっ! わかるだろっ、なあっ! わかったなら……生きてるなら返事しろっ! 返事しろよっ!」
体が地面にくっつく寸前、彼女をあわてて抱きかかえたのは幼いころからよく知っている手。大好きな従兄、エルステッドの手。
「起きろフィラ・フィアっ! お前が死んだらすべてが終わる! おれたちが今まで積み重ねてきたものを、無駄にする気かっ? 答えろよ、なあっ!」
抱きかかえる手は優しくて、とても心地よかった。
「エル……ス……テッド……」
最期の吐息を、吐く。
「ご……めん……ね……」
その身体が一瞬痙攣して。そして――動かなくなった。
フィラ・フィアは、世界の希望はこうして死んだ。
死んだ。神さえ封ずる者が。「荒ぶる神々」へ対抗する、最後の手段が。封神のフィラ・フィアが。
エルステッドの腕の中で息絶えた彼女は、もう動かない。
――哄笑が、聞こえた。
ゼウデラが、戦いの勝者が胸を反らせて哄笑している。
「ハァッハッハッハアッ! クク、ククク、クククククッ! なんと……なんと、愉快な……! 正義だと愛だと返せだとっ? それが何になるというのだ! 正義も愛も人間の世界も! 我が力の前に敗れ去ったではないか! 笑止! 所詮人間! いくら力ある者が寄り集まったとて、烏合の衆は烏合の衆よ! 力弱い人間は土台、何をしようが神には勝てぬ! 勝てぬものにそれでも挑むとは、愚かを越えて実に愉快だな!」
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