一章 動き出す時間

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一章 動き出す時間

「……と、いう伝説があったわけだが……。聞いてるのかお前」 「しーらない」 「…………」  穏やかな昼下がり、島国シエランディアの没落貴族、イグニシィンの居城にて。 イグニシィンの次男坊フィレルに幼馴染ロアが、伝説についての勉強を教えていた。  しかしフィレルはロアの講義なんてまるっきり聞こうともせずに、 「別に伝説なんてどーでもいいじゃん。それがなんの役に立つわけでもなし。それより今日は暖かくていい日だし! 外に出ようよ!」  などと言っている。  ロアは溜め息をついた。 「お前は貴族だろう? 曲がりなりにも貴族なんだから常識レベルの伝説くらい理解しろ! 恥をかきたいのならばオレはそれで構わないがな……。しかし、そのせいでファレル様の顔を汚すのだけは断固として許すものか」 「僕は会議に出ないからそれで兄上が困ることはないでしょ。次男は気楽でいいね、いいねえ」 「…………」  ちなみにファレルというのはこの家イグニシィンの長男坊で、フィレルの実の兄である。ロアは戦災孤児らしく、幼いころにこのファレルに拾ってもらい以来、フィレルのお守りとして任じられている。  しかしフィレルはとんだ腕白小僧で、みんなが手を焼いているのだ。 「ってことでね。ロア、バーイ!」 「勝手に外へ出るな! ったく、あの馬鹿が……!」  ちょっとした隙を突いて出ていくフィレルを、ロアはあわてて追いかけた。  少しばかり肌寒い、秋の日のことだった。   ▼
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