一章 動き出す時間

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「フィレルが抜け出した時用に」とファレルがロアに渡した小額の小遣いはすぐにフィレルの手に渡った。正確には、ありかを知っているフィレルに奪い取られた。 「…………お前」 「いーじゃん、いーじゃん。やった、150ルーヴもあるよ! 何を買おうかな、わくわく」  フィレルはどこまでも能天気だった。  そんなフィレルだけれど、彼はたぐいまれなる能力を持つ。  彼は昔から絵を描くのが大好きで得意である。そこに魔法の才能が混じると時に、「描いた絵を実体化させられる」能力を持つ魔導士、「絵使」が生まれることがある。その絵使が高じると、他人の描いた絵や印刷物までも実体化させられる「絵心師」が生まれるわけだが……。「絵使」は多くいても、「絵心師」は非常に少ない。  「絵心師」が絵を「取り出す」と、取り出された絵の部分だけ妙な空白が絵に残る。そういった絵は「白い絵」と呼ばれ、そうなった絵はちっとも見栄えがよろしくなくなるので使い物にならなくなる。問題はフィレルがしょっちゅう絵を「取り出し」ていることで、フィレルに限って、絵は消費物になるというわけのわからない原則が発生する。  そしてフィレルはフィレルゆえに、その力を用いて数々の問題を引き起こすのだ。 「帰るぞ、フィレル」  フィレルが150ルーヴを使い終えた頃。ロアは文句を言うフィレルを引き摺って城へと帰っていった。  城の前まで行けば。 「お帰りなさいませ、フィレル殿下、ロア様」  雇い主が金欠のためにロクな装備が与えられていない門兵があいさつする。  それにロアは会釈を返すが、フィレルは無視して走り出す。本当にお気楽な奴である。
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