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神さまは一体何をしてるの?
目覚めるとそこは、屋外階段の踊り場だった。
理人は思わず自分の身体を確かめた。
確か屋上から飛び降りたはずだったのに、なぜ自分は助かってしまったのか。
だがその理人の傍らに、黒ずくめの男が現れこう告げた。
「自殺程度で地獄に来られても困るんだよね。どうせならもっと悪い事してから来てくんないと」
男は地の使者だと言い、地獄も今や人口過多で、入獄者の選別は厳しいという。
「自然死じゃないと天国には行けないし、かといって簡単に自殺して地獄に来られても困るんだ」
親の期待、失恋、会社からのプレッシャー等、精神的苦痛からの逃避自殺では今や地獄には行くことは出来ず、極悪人や大犯罪者でもなければ命を救われてしまうらしい。
それならどうすれば、と理人が嘆けば、男は様々な悪行を提案してきた。
殺人、強盗、詐欺、その他あらゆる犯罪を勧められるが、気の弱い理人にそれらはハードルが高すぎた。
ならば、と手始めにホスピスに入院している患者の命を奪う事にしてみた。
先の無い人間なら殺せるだろうと老人に近づくが、
「最期の時に見送りがいるなんて、こんなに幸せな事は無い」
と、何故か感謝されつつ看取ってしまう。
銀行強盗をしようとすれば振り込め詐欺に騙されている人を助けたり、悪行を行おうとする度に全てが逆の結果となり、人助けばかりする事になる始末。
次第に「このまま生きるのも悪くないかも」との思いが理人の中に芽生えるが、今度は天の使者だという男が理人の前に現れた。
天国も同じように人口過多だから、出来ればこのまま地獄へ落ちる努力をし続けてくれると助かる、と告げられ理人は混乱する。
「神さまは一体何をしてるの?」
嘆く理人の前に、今度は老人が現れた。
「創造して命を増やすのが創造主たる私の役目。人口過多は必然じゃ」
一体これからどうすればいいのか。
理人の苦難は簡単には終わりそうになかった。
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