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部屋の中は、ツバキが好きだというクローバーの柄のグッズがいっぱい。
スリッパやカーテンにもクローバーが刺繍されていて、どうぞー!と出されたグラスにもクローバーが描かれていた。
「お前、好きな?クローバー」
「うん。見つけると買っちゃうんだよね。ビール?焼酎?」
「まずはビール!それとアッチのいいニオイのものを」
狭いキッチンの小さいフライパンを指差した。
ツバキが作った料理は、部屋に上がった時からわかっていた。
大好物のハンバーグで、しかもツバキと二人きりで部屋飲みなんて、テンションを上げるなと言われても無理な話。
乾杯するやいなや口いっぱいに出来立てのハンバーグを頬張った。
「うっま!」
「よかった」
「毎日食いたいくらいだよ、うん」
ついポロっと口から出た言葉に自分自身が過剰に反応して、
「あっでも、コージが好きなのは唐揚げだよ?オレ、練習台になってやろーか?」
とツバキの方を見ると、少し困ったような表情に変わり、コトン…と箸を置いた。
「あのね……私さ…」
オレもつられて箸を置いたけど、これから聞かされる話を想像して落ち着かず、クローバーのグラスを握り締めた。
「何かあった?コージと」
それとも違うオトコと?
聞きたいような聞きたくないような、むず痒い気持ちに全身が包まれていく。
「コージくん?コージくんとは何にもないよ」
「そ……」
あちゃ…じゃ、やっぱり別のオトコか。
「だから、唐揚げは作らない」
「ん?」
「私が作るのはハンバーグだよ」
「えっ?」
テーブルに置いた箸を両手でぎゅっと握って大きく深呼吸すると、
「好きなの」
言い終えると、グラスを持ち上げてゴクゴク…といい飲みっぷりでビールを一気に飲み、言葉を続けた。
「コージくんにシンくんのこと相談したら…ハンバーグが大好きだって教えてくれて…私…料理あまり得意じゃないから練習して、コージくんにはそれまで試作品食べてもらってて…ようやくちゃんと食べられるくらいまでになったから…思いきって…今日誘ったの」
顔を真っ赤に染め、俯いたままでもう一度、
「シンくんが好きなんです」
そう言ってくれた。
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