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もしかして?いや、まさか。
でもひょっとして?
そんなそわそわした気持ちが文字に現れないように、
【オレは今夜でもいいけど?】
素っ気なさをアピールするつもりで送信してから、すぐにでも二人きりで飲みたいって思われていないかと変な汗が背中を流れる。
【ありがと!駅前に7時でいい?】
特に気にしていない様子の返事にホッとして、
【オレ授業終わるの5時なんだけど、2時間も何してりゃいいの?】
教授が黒板に向いた隙に素早く入力して送信を押す。
【勉強(笑)】
【無理。腹減って死ぬ。死んじゃう!】
欲張ってそう送ってから、ツバキから何か相談事があるんだとしたら迷惑だったかもと、また変な汗が背中を伝う。
【じゃあ…ご飯食べに来る?私何か作るよ】
「マジかっ!」
少し遅れてきたLINEの破壊力は凄まじく、椅子を倒す勢いで立ち上がってしまっていた。
教授とクラスのやつらの冷たい視線を浴びたまま残り時間を過ごし、授業終了とともに逃げるように教室を出た。
ビールを6缶とツバキが好きな柚子風味の焼酎を買い、教えてもらったバスに乗り込んだ。
どんな話をされるんだろうか。
コージと何かあったのか?
フラれたとか?
実は別のオトコがいる?
オレと二人きりで…と言ってくれた真意はわからなくて、どういう内容であれオレはツバキの味方でいようと、柚子の焼酎瓶のラベルを見つめながら揺られていた。
30分ほどすると目的のバス停の名前が表示された。
降車のボタンを押して窓の外を見ていると、バス停近くに見覚えあるコートを着込み、顎のラインまで短く切ったばかりの首元を覆うようにグルグルとマフラーを巻いたツバキが見えてきた。
さっきまでのマイナスな思考はどこかへ吹っ飛んで行く。迎えに来てくれた嬉しさの方が今は強くて、
「飼い主を待つ健気な犬かと思ったわ」
なんて、思ってもないことをつい口にしてしまう。
嬉しくて尻尾振ってんのはオレだってのにね。
「犬って!」
「くく……。ちゃんと食えるモン作ったんだろーな?」
「たぶんね?あはは」
予想より幾分明るいツバキに安堵したものの、もしこれが空元気だったら?という疑いも拭えない。
けれどオレはツバキの隣を歩けることが嬉しくて、どーしてもニヤつく口元を隠すように口笛を吹いて誤魔化していた。
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