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商店街はクリスマス・イヴの活気に包まれ、いつもの閑散とした雰囲気とは違って煌めいている。
その商店街の片隅にある小さな小さな書店にも、プレゼント用の絵本や、図書カードを買い求める客がちらほらとやって来ていた。
僕はプレゼント用の包装に手間取りながら、プレゼントを買っていく人たちの暖かな夜を思って、ほっこりと胸が温まるのを感じていた。
そろそろ店仕舞いの時間だった。そして、今日がこの書店を開ける最後の一日だった。
明日には店の中の物は全て業者に引き取られていく。
僕は壁にかけてあった写真を外し、今もなお変わらぬ笑顔の彼女に話しかけた。
彼女は十三年前のクリスマス・イヴの日、事故にあって帰らぬ人となった。
渡し損ねたプレゼントは今も捨てられずにとってある。
その日、プロポーズする予定だった。
プレゼントの箱の中身はもちろん指輪だ。
と言っても子どものお小遣いで買ったおもちゃの指輪だ。渡さなくて正解だったかもしれない。
今なら少しは立派な指輪をプレゼントできるのに。
「ねぇ、僕はここにはもう帰ってこないんだ。遠くに行くから。
最後に一目会いたいよ」
チリン、と店のドアに付けてあるベルが鳴った。
そこにはもう二度と会えない筈の彼女が立っていた。
十三年前の姿で。
「随分待たせちゃったわね。こんなに歳を取るなんて」
彼女の泣き笑いが、僕に本人だということを教えている。
「なぜ……、死んだと思ってた。
本当にキミなのか?」
「そうよ。あの日あなたが願ったでしょ。
大人になって、本物のプロポーズするからもう一度会いに来てって」
まだ小学生だった僕は、彼女の乗った救急車を追いかけて、泣きながらサンタにそんな願いを言ったような気がする。
「あ、指輪が……。その、今はなくて」
「じゃあまた来年、用意しておいてね」
「え?」
彼女は僕より十三歳年上で、僕は彼女と同じ歳になっていた。
「あなたより年下になりたいっていうのが私の願いだったの」
ふふふと笑って彼女はまたチリンとドアベルを鳴らして出て行った。
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