3ヶ月のすれ違い

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渋々唸る瀬波はやっぱり無邪気な子どもの様に見える。そんな恋人を心底可愛いと思いながら、怜はずっと気にかけていたことを口にした。 「仁」 「ん?」 「僕はいつも仁に守られてばかりだ」 知らない所で、自分を思いやり、瀬波は行動してくれる。それは嬉しいことだったが、一方で後ろめたい気持ちにもなる。 恋人ならば、せめて対等な立場でいたかった。 「もう、隠し事をするのだけはやめてくれ」 いくら自分の為とはいえ、その所為で瀬波が悩んだり傷ついたりするのは耐え難い。 怜は瀬波の腕の中に顔を埋めた。ふわりと瀬波の匂いがする。 「分かったよ、今度からきちんとお前に相談する」 髪を撫でられ、胸に押し付ける様に頭を引き寄せられる。幸福と安堵を感じながら、怜は呟いた。 「だから、今度は僕が仁を守るんだ」 「お前が? いったい何から俺を守るんだよ」 意味が分からないと言って、瀬波はククっと笑う。真面目に言ったつもりなのに、自分だけが必死になっているような気がして、怜は腕の中からむくりと顔を出し、頬を膨らませる。 「分からないけれど、もし、そういう事が起きたらだよ」 「なんだ、それは」 未だ笑いが止まらないのか、瀬波は腹を抑えている。拗ねたように睨みつけると、瀬波が怜の頭に手を乗せた。 「あぁ、その時は頼むよ」 なんとなくはぐらかされた様な気もしたが、二人で一緒に居られる心地よさに、それも曖昧になっていく。再び瀬波の腕に頭を預けると、怜は顔を横にして瀬波と向き合った。 「そういえば、言うのをずっと忘れていた」 「忘れていた?」 「仁が長い家出から戻ってきたんだ。……だから」 漆黒の瞳を見つめ返す。 「仁、おかえり」 そう言うと、瀬波はひどく嬉しそうに笑った。 「ただいま」 変わらぬ日常の言葉と一緒に、そっと優しい口づけが舞い降りた。 【了】
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