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天気は良好。眩しいお日様がポカポカと僕の体を暖め、深呼吸をすると、優しい風が僕の嗅覚まで森林の匂いを運んできてくれる。僕にはその自然の香りが視覚化されているようにさえ感じた。
僕は今、有給休暇を使い趣味の釣りを嗜むために、車で約三時間かけてこの端山までやって来ていた。ここは取り分け名所という場所でもないため、他の釣り人や登山客なども少なく、静穏で僕にとっての穴場的な存在だった。
僕は釣り道具をたくさん積めるからという理由で購入した、大きなワゴン車のテールゲートを開き、中から釣竿やクーラーボックス、あと餌やルアーがなかに入ったショルダーバッグ等、一式の荷物を取り出して全て担いだ。これが中々に重い。
そして凸凹の山道を通って川へと向かう。歩く度にザクザクと落ち葉を踏む音が聞こえた。
少し息が切れてきたころに、川の流れる音が聞こえてきて、やがて不規則に並ぶ樹木の間からそれは見えた。太陽に照らされて発生したそのギラギラとした輝きは、波の動きに沿ってたゆたっている。
僕はとりあえず一息つこうと、釣りをするポイントを決める前に岩の床に座り込み、荷物を置いた。今日はどの辺で釣ろう?と考えながら、ふと上流の方を向くと、先客が来ていた事に気がついた。今日は運が悪い。
その釣り人が一人できていた事が不幸中の幸いだろう。子連れだったりカップルだったりして、うるさくされようものなら、態々この山を選んで三時間も車を走らせた意味が消え失せてしまう。
釣り人は若い──パッと見た感じでは20代前半くらいの風采の良い青年だった。まあ、特に気にする必要はないかもしれないな、と僕は思った。
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