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朱鷺にはほんの少しだが気持ちは分かる。もしも母が倒れてしまえば?きっと碧のようになっていたことだろう。
朱鷺にとって、碧に出会えたことはかなり大きな収穫で、母親をより大事にしよう、家族を守ろう。しかし、その家族の中には自分がいることを忘れてはいけない。
碧には悪いが、自分は彼のようにはならないと心に誓っていた。
しかし、碧はそれほど弱くはなかった。
「トキちゃん。僕。憎しみ捨てる」
「へぇ……」
その一言に、朱鷺は心底驚いた。あれだけ母と自分を棄てて、母が電話したときには困るの一言で断ち切った男への憎しみへの気持ちで生きてきた彼女がそれを棄てる。と言い出したのだ。驚かない訳がない。
だが、理由はよくわかる。一つは彼の周りには多くの友達が出来た。中学三年の頃から高三まで同じクラスだった事もあり、高校に進学して多くの友達が出来たことはかなり嬉しかった。元々人当たりの良い優男だったから必然であったのかもしれない。
そして、もう一つは恋人の蒼の存在。愛する人がいるということは、それだけで世界が明るくなるものなのだろう。
「それにアオちゃんがいるのに囚われてたらダメかな?って」
その顔には迷いはなかったように見える。しかし、それは一時的なものかもしれない。もし彼が潰れてしまいそうになるならば、その時また自分を頼ってくれるならばその時は力になろう。
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