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それからの碧は幸せそうだった。
苦しそうな、悲しそうな顔をすることはあれど、昔に比べたら少なくなった。泣くことも、自分を傷つけることも本当に少なくなった。
朱鷺は安心した。自分では傷をわかってあげることはできても、癒すことは出来ない。蒼には癒すことが出来た。これでよかった。クラスの友人や、生徒会役員からも慕われていて、学校からの人望も厚く、心から満たされる顔をしていた。
碧は憎しみから、過去の自分から解き放たれたんだ。
しかし、それは卒業式の日に瓦解してしまう。
蒼の両親は大手企業の重役で、一時期は海外にいたこともあった。その両親が帰って来て、卒業式に来てくれた。
蒼はとても喜んでいた。蒼もまた親元を離れて姉妹で暮らすのは心細かったことだろう。
朱鷺は蒼が家族と共にいる姿を優しく見つめている。
しかし、隣にいる彼はそうではなかった。
音もなく、崩れ去った。しかし、煩く崩れ去った。
「あ、……う…………そん……な」
碧は家族がいない。目の前の恋人はとてと嬉しそうに家族と話をしている。そんな姿を見て、自分もこうなりたかった。そう思っているのだろうか?
しかし、そんな感じではなくもっと黒い何か。もっと深い何か。もっと危ない何かを彼から感じた。
朱鷺は碧の手を引いてその場を立ち去る。
誰もいそうにない校舎裏まで。
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