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「どうしたのよ?」
碧は黙っている。呆然としている。今朝、卒業式が始まる頃に見た希望溢れる顔は何処へやら。脱け殻になってしまっている
「ミドリ!!」
「見付けた……」
漸く口を開いたと思えばそんな言葉が漏れた。しかし、良く聞き取れなくて朱鷺は聞き返す。
「え?なんて?」
「………………やっと………………見付けた………………」
見付けた?一体何を見付けたんだろう?わからない。否、心当たりならある。しかし、何故?今なのだ?あったか?そんな瞬間が。
「何を?」
これ以上聞いてしまってはいけないのかもしれない。ひょっとしたら碧は壊れてしまうのかもしれない。だが、それはもう遅かった。
「見付けたよ…………父親………………」
そう言って碧はブレザーの胸ポケットから一枚の古い写真を取り出す。しわしわになってしまった写真。それを見ると朱鷺は目玉が溢れるかと思った。
なんて……なんて残酷なんだ。そんなことがあって良いのだろうか?漸く……漸く碧は写真の男を憎むことを辞めかけていたというのに。まさかその相手が。自分の父親が
「トキちゃん…僕は……僕はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
碧は吐き出した。今朝は何も食べていなかったのだろうか?胃液だけが吐き出されていた。そのあとも嗚咽は続く。それが終われば泣き出した。そんな碧を見て朱鷺も泣くのだ。
彼の希望は消えてしまい、まさしくそれは絶望と言って良いのだろう。
写真の男は、随分と若いが、先程まで二人の目の前にいた男だった。青野蒼が父と呼ぶ男こそが、翠川碧の探していた父だったのだ。
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