<chapter2 碧と紅-emerald and garnet->

11/11
前へ
/42ページ
次へ
「どうしたのよ?」 碧は黙っている。呆然としている。今朝、卒業式が始まる頃に見た希望溢れる顔は何処へやら。脱け殻になってしまっている 「ミドリ!!」 「見付けた……」 漸く口を開いたと思えばそんな言葉が漏れた。しかし、良く聞き取れなくて朱鷺は聞き返す。 「え?なんて?」 「………………やっと………………見付けた………………」 見付けた?一体何を見付けたんだろう?わからない。否、心当たりならある。しかし、何故?今なのだ?あったか?そんな瞬間が。 「何を?」 これ以上聞いてしまってはいけないのかもしれない。ひょっとしたら碧は壊れてしまうのかもしれない。だが、それはもう遅かった。 「見付けたよ…………父親………………」 そう言って碧はブレザーの胸ポケットから一枚の古い写真を取り出す。しわしわになってしまった写真。それを見ると朱鷺は目玉が溢れるかと思った。 なんて……なんて残酷なんだ。そんなことがあって良いのだろうか?漸く……漸く碧は写真の男を憎むことを辞めかけていたというのに。まさかその相手が。自分の父親が 「トキちゃん…僕は……僕はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 碧は吐き出した。今朝は何も食べていなかったのだろうか?胃液だけが吐き出されていた。そのあとも嗚咽は続く。それが終われば泣き出した。そんな碧を見て朱鷺も泣くのだ。 彼の希望は消えてしまい、まさしくそれは絶望と言って良いのだろう。 写真の男は、随分と若いが、先程まで二人の目の前にいた男だった。青野蒼が父と呼ぶ男こそが、翠川碧の探していた父だったのだ。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加