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そう言いながらも罰の手をやめない碧。この時に蒼は碧との思い出が一つ。また一つと砕けていった。父に裁きを与える断罪の手を緩めないその愛した手を見ていると美しかった思い出が全て偽物に見えてきた。そんなこと思いたくないのに。
「碧……私たちの日々は……」
「偽物だよ?当然だろ?妹のこと愛するなんて思うわけないだろ?」
「初めて声をかけてくれたのは?」
「ああ。お母さんが残した住所に蒼がいたからこいつを利用しようと思ったんだ。そして、この間の卒業式の時に確信に変わったよ?折角尻尾を捕まえたのに、何処かに行ってしまったみたいだし」
「じゃあ……」
「そうだよ?君を利用したんだ。君の側にいればいつか現れると思ったからね。だからさぁ。恋人のフリをして一緒にいるのは吐き気がしたな正直。同じ空気を吸うのだって心底嫌だったねぇ」
全てが音もなく崩れ去った。そして新たに芽生えたのは憎しみだった。
愛は失われて、憎しみに変わっていったのだ。
何もかもが憎くなっていったのだ。
「蒼?僕が憎い?兄さんが憎い?いいよ。殺しにおいで」
碧は蒼の足下に何かを滑らせるように投げた。蒼はそれに目を向ける。何かと理解する前にそれを手に取った。これがなんなのか理解する必要はない。
今は、今まで恋人だった、否、恋人のフリをしていたこの男を許すわけにはいかない。
これをこの男に突き立てよう。大丈夫。一度は愛した男だ。せめて、地獄へ堕ちるという約束だけは守ってあげる。
碧から滑らされたそれを手に碧に近寄る。それを見て碧は父を縛られている椅子ごと蹴り飛ばした。その時に紐が切れて父親は漸く解放されたが、既に満身創痍だった。余計に憎悪がました。
碧は移動した。それをゆっくりと追う。碧もナイフを取り出した。
さあ。今から殺し愛が始まる。どちらかが死ぬ殺し愛が。
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