<chapter4 愛と憎しみ-love and hatred->

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そして、あれから早くも十年が経つ。碧の興した事件は三ヶ月で沈静し、半年経てば人々の記憶から抜けていた。色濃く根付いた事件だったはずだが、過ぎてしまえばこんなものだ。 今ではもう過去にすらなっていなかった。 しかし、身近にいた彼女達は決して忘れることはない。 朱鷺は、学友、後輩達に散々罵られた。知っていてたのに止めなかったのか。どうして自分達に話さなかったんだ。生きていれば違う道もあったんじゃないのか。と 確かに彼等の言うとおり。なのかもしれない。碧もそんなことはわかっていた。 しかし、そんなに簡単ではないのだ。人の感情と謂うものは。そんなに安くないのだ。人を憎むと謂う気持ちは。そんなに美しいものではないのだ。人を愛すると謂う感情は。 親友の、いいや、心友の朱鷺ですら止められなかったのだ。他の誰にも止められないし、他の誰の言葉も通らない。 でも、あの時わからなかった碧の気持ちが、蒼や朱鷺を始め、友人達は今なら解る気がしていた。 大切な何かを守るとき。同じくらい大切な何かを捨てなくてはいけない時がある。あの時の碧にとって最も大切だったのはやはり、恋人の青野蒼だった。のだろう。 そして、その代償として自分の命を賭けたのだろう。
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