<chapter1 碧と蒼-emerald and sapphire->

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晴れて恋人同士になれたと言うのに彼はあの時以来、一向に悲しみを見せてはくれなかった。 それを、元々碧ともとても仲の良くて、蒼とも仲良くなった紅朱鷺に相談したこともある。 「トキは何か聞いたことない?」 「あー。あんまり言って良いのかわからないけどミドリ、両親が居ないの」 「知ってるわよ。独り暮らししてるじゃない」 「そうなんだけど。ミドリ、母子家庭で育ったの。シングルマザーで生まれた時からお父さんは居なかった。死んだって言われていたみたいなの」 それは蒼にとってとても重たい現実だった。しかし、話しはそこで終わりではなかった。 「お母さんが亡くなったときに遺書が出て来てね。そこに貴方のお父さんは生きていて、この街にいるはずだって書かれていたんだって」 「住んでいると思われる住所に行ってみたらしいんだけど、居なかったし、何より聞いてた名前と表札が違うかったそうよ」 そんなこと、聞いたことなかった。どうして朱鷺にだけ話してくれて私には話してくれなかったのか疑問に思ったが、理由は何となくわかった。 朱鷺にも父がいない。理由は聞いたことないけれどいないのは確か。お互いに片親だけで且つ、その母親の苦労を間近に見てきた者同士。二人にしかわからない苦しみがあったのだろう。 自分も両親が仕事の都合で今は妹と二人で暮らしているが、GWや盆と正月には帰って来る。何不自由なく暮らしている。碧は独り暮らしでお祖母さんとお母さんのお兄さん。つまりは伯父さんからの仕送りと、バイトで生計を立てて暮らしている。こんなこと自分がわかってあげられるハズがない。簡単に解っちゃいけないことだ だから碧は少しでも痛みのわかってくれる朱鷺に話していたんだろう。納得した。
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