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僕が鍵を開けると、平野くんはカラカラカラとサッシを開けてニィっと笑った。
「君、平野くん、だよね? どうして?」
かすれた声で質問する僕に
「隣のヤマトんとこで、クリパやってるから誘いに来たんだけど、タカシくん本当に風邪ひいてたんだな」
平野くんは気安い感じで、僕のおでこに触った。
「ダメっ! うつっちゃう!」
僕は咄嗟に平野くんの手をはたき落した。
『熱、あるなー。じゃあ、これ着てさ。少しだけな』
平野くんは、難しい顔してダウンジャケットを脱ぐと、僕に着させて首の上までファスナーを上げた。
それから布団へ戻るように言うと、自分はベランダから芝居がかった声を上げた。
「風邪をひいて寝ている。タカシくんへ
聞いてください。『Merry Christmas Everyone』」
そうして、その場で歌い始めたんだ。
平野くんの歌声は、僕と同じ五年生とは思えないほど、うまくて。
しかも英語の曲なのに、すごくなめらかに歌うんだ。
なんてカッコいいんだろう。
僕の部屋は真っ暗で。
対して目の前のベランダは、隣のヤマトくんちのイルミネーションで、赤や緑や金でピカピカ光っているから、本当の舞台みたいに僕には見えた。
僕だけのための、ワンステージ。
僕だけのために、歌のプレゼント。
歌い上げた直後、「サンキュー」って言う平くんの言葉に、僕は手を叩いた。
思わず立ち上がって、窓に寄ると平野くんは嬉しそうに笑って僕に手を振った。
そして、僕んちのベランダの柵に足をかけると、大きくジャンプして隣の家、ヤマトくんちのベランダへと着地した。
僕はベランダに身を乗り出して、隣を覗き見て驚いた。
僕じゃとても飛べる距離じゃない。ヤマトくんにだって難しいかもしれない。
「あ! ジャケット!」
僕がベランダの柵ごしに声をかけると、平野くんは「あ、いけね」って笑った。
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