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「何が秋の山で小旅行だ!ふざけんな!どこだよここ?分からねーぞ帰り道?どうすんだ、この野郎!」
ああ、齢12歳にしてこの男は、かように怒鳴っているのだ。熱男と書いて「あつお」と読むこの男は怒鳴っている。まったく悲しいものだ、親友の玲児が日帰りのお手軽な旅に誘い出してあげたというのに。むやみに熱くなっても何もいいことはない。しかし、未熟でバカで単細胞の熱男は感情をコントロールできない。12歳とはそういうものだ。
熱男と玲児は共に12歳。秋の山に遭難した小学生が2人だ。まったく笑えない状況である。
「まあ、落ち着けよ。ここがどこかなんてそのうちすぐ分かる。どこに向かっているのか分からない旅も面白いじゃないか」
玲児は、冷静な少年である。家が金持ちで勉強もスポーツもそこそこでき、それなりに人望もあるので余裕ができる。余裕がある小学生など可愛くも何ともないが、金の力で育てられた真面目秀才優良児とは、そんなものだ。
「面白くねーわクソが!ああ、帰ってスマホゲームのレベル上げしてー!今キャンぺーン中で星5のカードが出やすい時期なんだよ!よりにもよって、こんな田舎でスマホ持ってきてねーなんてよー!」
ああ、自然に囲まれた山でこんな発言をするとは、何と愚かな熱男だろうか。熱男は、インドアな男なので外に出ることそのものを嫌う。家の中でスマホゲームのレベル上げに興じているほうが幸せを感じるタイプだ。その証拠に、熱男の軽装なこと!エメラルドグリーンのスウェットに小さいリュック。そのリュックの中にはチョコレートとスマホゲームキャラが書かれた筆箱、そして生徒手帳しか入ってない。まったく山を登るには軽装過ぎる。
対して玲児は、オレンジのパーカーにそこそこ大きいリュック。玲児のリュックの中には、この山の付近の地図、モバイルバッテリー、コンパス、ライター、防犯ブザー、着替えの下着、カイロ、カンパンなどが入っている。まったくぶん殴りたくなるほど、しっかりしている。
玲児がしっかり準備してくれるという信頼感から、熱男は軽装で来た。それほど信頼されている男だなのだ、玲児は。
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