1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちくしょう!婆さんも山伏も速い!ちくしょう!待てー!」
熱男は走りながら叫ぶ。しかし、その叫びを無視し、老婆と山伏は山道を走り続ける。その差はどんどん開いていく。
「あつおー!助けてくれー!」
山伏の背負うカゴから玲児の呼ぶ声が聞こえてくる。懸命に走る熱男だが、息が上がってきた。もともと運動が得意でない熱男にとって、山道を走るのはつらいものがあるのだ。息が上がって、口の中は血の味がする。熱男はあまりの疲労で走るのを諦めた。山道のわきにはえた大きな欅の木にもたれかかり、休憩する熱男。
「ちくしょう!どうしてこんなことになったんだ!」
大きな欅の木を背もたれにして座り込む熱男は、汗だくだった。息を整える少年を午後の日差しが照らす。
「おお、少年よ、息が上がっているな」
ふいに背後で男の声が聞こえ、びくっとする熱男。大きな欅の木の陰から男が出てきた。
ちなみにここに生えている木は、銀杏でも杉でも何でもいいのだが、今回は欅とする。この物語が生まれたきっかけでもあるからだ、欅は!欅って書けるんだ、熱男も玲児も!そして、その情報はこの物語の進行上、何の意味も持たない。だから読者は、とっととこんな欅の木のことは忘れていい。
「おい、今度は何だ?」
そう疑問を投げかけようとしつつも、驚きのあまり声が出ない熱男。
最初のコメントを投稿しよう!