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「よくカレーは二日目がうまいなどと言って、最近では〝二日目っぽい味のする〟ルーなんかもありますよね。でも、伊緒さんのカレーはそういうのを使わなくても、初日からなんだか二日目っぽい熟成した味がするんです」
僕の質問の意図が分かったのか、伊緒さんはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
そう、僕も一人暮らしの時にはよくカレーを作ったが、初日にはいかにも経験不足でまだ熟成されていませーん、といった体の「若い」味だった。
ところが、伊緒さんのカレーは見事に初日から二日目の味がする。こはいかにいかに。
「うーんとねえ」
伊緒さんは口元に指を当てて、虚空とにらめっこしながら考え考え、教えてくれる。
「特別なものを使っているわけではないの。よく隠し味にチョコとかコーヒーとかを入れるけど、コクを出すためには生のおろしニンニクを入れているわ。あとは、スパイスも黒胡椒とかガラムマサラとか足してるかなあ」
あ! あとそれと、と言って伊緒さんがぽんと手を打った。
「煮込むときにお酒をたくさん入れるの。赤ワインとか・・・あと梅酒もおいしいよ」
ほほう! 僕は一気に謎が氷解するような痛快な気持ちになった。
なるほど、あらかじめ熟成されているお酒をベースにすることで、えもいわれぬ味の深みやコクをカレーに与えていたのか。さらに、梅酒という果実のリキュールでフルーティーな香りを加えていたのだ。
道理で、伊緒さんのカレーは作ったときにはもう二日目っぽい味がするはずだ。
僕は感激してただ「おいしい」を繰り返し、食べすぎかなあと思いながらもそっと三皿目を所望した。
「よくかんで食べるのよ」
と笑いながら、伊緒さんがやや小盛りにカレーをよそってくれる。
「あ、そうそう。カレーって実は海軍のね・・・」
伊緒さんの大好きなカレーの歴史についてのお話が始まった。
何度でも聞きながら、さらに味わってゆっくり食べよう。
明日にはきっと、伊緒さんのカレーは三日目の味になっている。
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