伊緒さんのカレーは初日から二日寝かせた味がする

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 呼び鈴を押さず、ココン、コンコンとドアを叩き、カリカリと引っかくのが僕の帰ってきた合図だ。  でもそうしている間にもドアの向こうから、ぱたぱたと小走りに駆け寄ってくる音が聞こえてくる。  ドアを開けた瞬間、カレーの匂いが風になって吹き寄せてきた。 「おかえりなさい、晃くん」  満面の笑みで出迎えてくれるのはいつものことなのだけど、毎度毎度、まともに照れてしまう。 「ただいま、伊緒さん」  お嫁さんである女性を、僕はいまだにさん付けで呼んでいる。こんな毎日のやりとりが、僕にはたまらなく嬉しい。 「今夜はカレーだよ!」  ドヤァ! といった顔で伊緒さんが宣言する。  もちろんかなり早い段階で分かっていることだけど、僕は素直に大喜びすることにしている。  なぜなら、本当に、大変喜んでいるからだ。  
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