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「手を洗ってうがいをしてね」
と、母親のようなことを言いながら、伊緒さんが食卓を整えてくれている。
僕が着替え終わった頃にはちょうど料理を並べられるよう、いつも気遣ってくれているのだ。
カレーのときこそ真っ白なテーブルクロスをひくのは、彼女なりの美学なのだろうと思う。サラダにラッキョウや福神漬けといった重鎮らが卓上に布陣し、カレーライスはやや控えめに盛ってある。これは「お代わりしてたくさん食べてね」という伊緒さんのメッセージなのだ。
そしてコップの水には伝統にのっとってスプーンが浸されている。
伊緒さんと向かい合わせになっていそいそと卓につく。
二人同時に手を合わせ、
「いただきます」
と、二人同時にとなえてスプーンをとった。
「おいしい!」
開口一番、僕は必ずそう叫ぶようにしていた。
なぜなら、本当においしいからだ。
にっこり笑って伊緒さんもスプーンを口に運ぶ。僕がおいしいと言うのをいつも見届けているのだ。
「うん! カレーだね!」
と、伊緒さんが謙虚な感想を述べる。
「はい、カレーですね!」
と、僕が言わなくてもよかったかな、と思うような貧しい返事をしてしまう。
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