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なんだか恥ずかしい思いもあるのだ。とにかくもう、すごくおいしくて嬉しい。
「カレーは飲み物」
という格言ははるか元和元年、時の南町奉行なにがしによって呟かれた、というのは伊緒さんのお母さんのジョークなのだけど、確かにするすると食べやすく、ついつい飲み込んでしまいがちだ。
ゆっくり味わって、よく噛んで食べることを心がけているものの、一皿目は結果として「注意して飲む」状態になってしまっている。
ようやく当初の目標を思い出すのは、少し落ち着いた二皿目からで、
「お代わり、どう?」
と、嬉しそうに伊緒さんが聞いてくれて初めて我に返るのだ。
そういえば、結婚するまでは夢中になってごはんを食べるという経験がなかった。
行儀が悪いよなあ、と思いながらも、そんなことも嬉しく思うのだ。
「実はずっと思っていたんですが」
カレーのお代わりを受け取りながら、僕は伊緒さんにこれまで聞けなかったことを聞こうと、質問を繰り出した。
「いつもカレーは、作ったその日に食べさせてくれてるんですよね」
伊緒さんはきょとん、とした顔で
「そうだよ」
と、頷く。
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