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「君の味噌汁を毎日飲みたい」って、実はすごくたいへん
伊緒さんにどういう感じでプロポーズしたのか、実はほとんど覚えていない。
その前後の記憶があいまいな理由はまあ、おいおいお話しするとして、何やらしきりに「味噌汁」のことを言っていたのだという。
「君の味噌汁を毎日飲みたい」
というプロポーズの文句は、もはや無形文化財ともいえるほど伝統的かつレトロなもので、この封建的なセリフが僕は大嫌いだった。
考えてもみれば、これは家庭に入った女性が食事を支度して、しかも味噌汁という作業工程の多い汁物を毎日作るのを求めることに何の疑いも抱かない、理不尽極まりない旧世代の因習だとも言えるからだ。
だが、僕は見事に味噌汁の話を展開して、最愛の女性にプロポーズしてしまった(らしい)。
なんというだめな男なのだ、僕は。
小さい頃から塾通いで、両親が共働きだった僕は、家族で食卓を囲んだ記憶がほとんどない。
だから、味噌汁を引き合いに出したプロポーズには、嫌悪と同時にものすごく、
「いいなあああ」
と、いう気持ちを抱いていたことを白状する。
実をいうと結婚するまでは、あまり味噌汁を食事のメニューに加えたことはなかった。
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