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「嘘です。」
夕日のせまる時間帯、とある学校の教室内。とある女子生徒の声が響いた。
「なんで。」
次いで聞こえたのは無機質な――やや不機嫌を滲ませたような声。
長身の男子はだるそうにポケットに手をつっこみながら目の前の女子を見下ろす。
いや、そんな顔でそんなこと言われてもね、信じられる訳ないでしょう!?
どうして伝わらないのかと、歯がゆい思いに女生徒は唇をとがらせた。
私、今井梨乃が長い間片想いをしていた日向勝真先輩に告白をして、見事に玉砕した後。先輩に告白をして、盛大に振られた、そのたった一週間後。
あろうことか、先輩は私と全く同じ方法で――げた箱に手紙を入れるというベタなやり方で――私を今この場に呼び出した。
あの時、粗相をしたことを咎められるのかとドキドキしながら教室内に足を踏み入れたが…
その彼に開口一番言われたのが、
「俺と、つきあって。」
なんて。
性質の悪い冗談にもほどがある。
驚きよりも呆れの方が上回り、先輩には悪いが鼻で笑ってしまった。
それどころか静かな怒りすら覚える。先輩は、振った女にさらに悪戯を仕掛けて喜ぶような最低な人間だったのかと。
私のような底辺女子にもプライドはあるのだ。卒業後の暇をつぶすための退屈しのぎに人の恋心を利用しないでほしい。
「嘘です。」
私はそうキッパリと先輩に向かって言った。
そして、冒頭に戻るわけだ。
「なんで嘘だ、とか言うわけ?」
「だから、いいんですってば、そんな気を遣ってもらわなくても!」
私は半ばやさぐれながら先輩に食ってかかる。
しかし、先輩の相変わらずの素敵フェイスを眺めることは極めて心臓に悪いため、目をそらして床の木目を数えながら。
「…振られた私に、これ以上なにを言うんですか。」
ぽつり、と呟いた。
あの告白は、最初で最後のチャンスだった。
第一志望校に現役合格を決め、高校の卒業式も終わり。
あとひと月で夢のキャンパスライフに突入する先輩を、高校に取り残されてしまうちっぽけな私が引き止めるなんて、センターで平均8割以上とるくらい難しい。
到底、無理な話だ。
そう、無理だった。
一世一代の告白は見事に玉砕。涙が枯れるまで泣き、学校をサボり、やけ食いにより体重を数キロ増やした。
それで、終わった話だった。
なのに。
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