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静かに先輩の方を振り向くと、彼は少しいらいらしているように見えた。
ご尊顔が、さらに不機嫌そうにゆがんでいる。
「だから俺、お前のこと好きなんだけど。」
「エイプリルフールはまだ先ですけど。」
「嘘じゃない」
「あーはいはい、分かってます。振られたからって言いふらしたりとかしませんよ。そりゃあちょっとは恨みましたけどね、まあ最初から望み薄だったから…
「おい」
どん!!
「!!?」
大きな音が教室中に響いた。
先輩が机をたたいた音だった。壁ドンならぬ、机ドンだ。
あんまり大きな音だったから、私はびっくりして飛び上がった。
「な、…なんですか。」
「人の話を聞けっての」
「き、聞いてますよ。」
「じゃあ、もう一回言うからよく聞いて。」
「はい…?」
「好きだ。」
「―!!」
ストレートな言葉と眼差しに、どきん、と心臓が高鳴った。
どきどきどきと、鼓動が早まっていく。
うそだ、夢だ。
これは私が見ている幸せな夢に違いない。
こんな良いことが、起きるわけない。
「あんたも、俺のことが好きなんだろ?」
「…っ」
うわあ、なんてナルシストな台詞なんでしょう!
これがただの思いあがっている不細工な男子なら鼻で笑ってやるところだけど、実際に私は先輩が好きで、しかも言葉に言い尽くせないほど大好きだから全然間違っていない。
そう、間違っても。
先輩に嫌いだなんて言えるはずがない。
「……す、すき、ですケド…」
「じゃあいいだろ、何の問題もない。」
「いや!違うんです!」
「……何。」
「だ、だって、もう終わったんですって、私の恋は!なんでぶり返そうとするんですか!」
「…なんで、俺が振られたみたいになってんの。」
がしがしと頭をかいた先輩は、
「面倒くせぇ」
そう言ってゆらりと私の方に向かって踏み出した。
先輩、完全に目が据わっている。
正直言って超怖い。
「あんたのその勘違いしてナナメ上の方向に突っ走るとこ、面白いと思うけどさ、」
また一歩。先輩が近づく。
その分だけ、私も下がる。
「いい加減、面倒くさい。どうすりゃ信じるわけ?」
とん、と壁に背がついた。
まるで追い詰められたネズミだ。冷や汗がたらりと額を伝う。
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