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前編 仮面の男と守護天使
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
「なんだ。食べないのかい?それ以上、ダイエットする必要はないと思うが」
「これでどうやって食べろって言うんですか?」
わたしはそう言うと、手錠をはめられた両手を掲げた。
「ああ、失礼。じゃあ、食べさせてあげよう。はい。あーんして」
「……だから、そういう問題じゃありません!!」
どうして、わたしはここにいるのだろう。
そして、この男にこんな扱いを受け、そして、命賭けのゲームに身を投じることになったのだろうか。
ここは恐らく、ラスベガス。
人々の夢と欲望の交差するギャンブルの街。
きっかけは、大学の卒業旅行。
世界中の国々、都市の中からどうしてこの街を選んだのか、未だに明確な理由はわたし自身、思いつかない。
父に連れられ、何度か訪れたことがあった土地だったし、それなりによく知った場所だったから。
そう。そんな父は一か月前、急に他界した。
既に母を失っていたわたしは、この段階で、家族と呼べる存在を全て亡くしたことになる。
この街を選んだのも、父との思い出が多いこともあるが、まるでこの世の全ての光を集めたかのようなネオンの煌びやかさが、いっときでも寂しさを忘れさせてくれる。
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