彼の景色

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T町の北の交差点を西に折れ、私鉄のデコボコしている踏み切りを渡り、真っ直ぐに伸びる二車線の道路を愛車でのんびり走っていると、裕美はなぜかいつも遥か昔に別れた彼のことを思い出した。 その彼と最後に会ったのは大学生の時だから、かれこれ五年は経つ。 今は別の人と付き合っていて、普段は五年も前に終わった恋人のことなど思い出したりしないのに、この道の何の変哲のない、少しくたびれた家々が並ぶ風景を何となく眺めている時に限って、裕美はそのかつての恋人のことを思い出すのだ。
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