彼の景色

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思い出すと言っても記憶に残るようなロマンティックなシーンではなく、彼と裕美のどうでもいいような日常の断片だった。 例えば、お昼は何を食べようかとか、今週はバイトがきつかったとか、その時の空の色とか、どうしてそんなものを思い出すのか理解に苦しむような、脈絡のない普通の会話の途中を切り取った断片的な彼の声と言葉の羅列が、裕美の頭の中を通り過ぎるのである。 彼を乗せてこの道を走った記憶はない。車だって就職してから買い替えたので、彼との繋がりは何もないはず。
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