六条くんの盲執

11/17
前へ
/19ページ
次へ
少し泣いているのか、すんすんと鼻を鳴らす君を感じつつ、ボクはシャツの上から懐に忍ばせたふくさに触れた……。 昨夜のことだ。 新年を待たずに貰えるだけのお年玉をかき集めたボクは、その日のうちに東京を経ち今朝の午前三時に熊野へ入った。 ここには熊野三社ーーつまり本宮と新宮、那智の三社があるというのが一般的な認識だが、実は裏にもう一社ある。 その幻の熊野四社は、熊野外宮(くまのげぐう)、通称『外道』と呼ばれていて、ヤバい連中だけが密かに集う。 国からも、他三社からも存在を完全否定されているためどこの観光資料にも載っていない。 だが蛇の道はなんとやら。裏の業界では話題にのぼらぬ日はない、知る人ぞ知る秘所だ。 ボクも来るのは初めてだったが、やけにカラスがギャアギャアと陰鬱すぎる境内の奥に、小さな社が闇に沈んで鎮座していた。 他の神社とは明らかに違う異様さが、黒い膿溜まりとなってそこかしこに転がって見えるようだった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加