六条くんの盲執

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息を飲んで、境内の片隅にある目立たない御守り売り場へと向かう。 声を掛けると、事務所の奥から出てきたのは死んだ魚の目をした白装束の男だった。年は若く、有髮、というか茶色に染めた髮を乱して、クチャクチャとガムを噛んでいた。 「なにか?」 つっけんどんに問うてくる態度に怯むのも癪で、こちらも横柄に顎を突き出した。 「呪い符を」 「……っあー、あれッスかぁ……。あれ今、ラスト一枚なんっスよねぇ」 《熊野牛王誓紙(くまのごおうせいし)(呪)一枚五千円》と書かれた料金表をチラチラ見ながら、男がせせら笑う。 チッ、足もと見やがってこの野郎。 イラつきつつ、まだお年玉のポチ袋に納まったままの一万円札を取り出して男の目の前に叩きつけた。 にぃっと片方の口角を上げた男は、 「まいどどうもー」 抑揚のない声で応じると、人目も憚らず札を自らの懐に突っ込み、ボクに紙切れ一枚だけ投げ寄越してピシャッと売り場の小窓を閉めた。 胸くそ悪ぃが、んなこたぁこの際どうでも良い。 ともかくこいつが手に入ったんだ。
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