六条くんの盲執

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熊野牛王誓紙(くまのごおうせいし)ーー牛王神符(ごおうしんぷ)、おからすさんとも呼ばれるこの神札は、今どき一枚一枚、木版に墨で手刷りされた手の込んだ代物だ。 烏文字とかいう、多くの烏が列なって文字を成したものが書いてあるが内容はよく分からない。 こいつは護符として使われるのが一般的で、例えばかまどの上に祀れば火難除けに、玄関へ祀れば盗難除けになる。 が、もちろんボクの目的はそんな陳腐なもんじゃない。 こいつには裏の使い方があるんだ。 この牛王符は、裏面に起請文(きしょうもん)、つまり誓いの文を記すと、誓約内容を熊野権現に誓ったことになる。 もしも誓約を破ると、使いのカラスが一羽死に、約束を破った者も血を吐いて死に、地獄に落ちると信じられている。 さらに願いが天に通じるまでの14日の間に鼻血を出すと、起請の(しつ)、つまり誓いが消えてしまうから注意が必要だ。 こいつは他三社でも手に入るが、『外道』のそれは毛色が違う。護符として使われるのはむしろ稀で、主に呪い専門の誓約書として利用される。 特に年始に手に入れたそれには、効果満点の法力が宿っているとの専らの噂だ。 呪い符をふくさに包み懐に入れたボクは、君に渡すためのおみくじを引いた。もちろん大吉を得るまでは引き続け、確認後は元通りに糊付けて。 始発に飛び乗り東京へとんぼ返りした足で、君の家へ向かったというわけ。
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