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電話を受けた時間の下に、素っ気なく一行書いてある英字。そのメモ用紙を見て安田さんが俺を見上げた。
「ああ。それ、すみません。私もお名前をお伺いしたのですが、教えていただけませんでした。ただ、店の名前だから、櫻井さんに言えば分かるとおっしゃって。こちらから折り返しお電話差し上げます。と、連絡先もお伺いしたのですが、それも結構だと」
「ふむ。一時間前なんだね? で、相手は男性……?」
「そうです。そうです。男性です。その時間に電話がありました」
「分かったよ。ありがとう」
安田さんは仕事に戻る素振りも見せず、興味津々という表情でこちらを見上げたまま。仕方なく事実を『曖昧に』説明した。
「先月だったかな? 学生時代の友人と飲みに行ったんだよ。久しぶりで飲みすぎちゃってね? 酔ってて覚えてないんだけど、マスターと意気投合して、きっと名刺を渡したんだろうね? 多分、また飲みに来てね! っていう営業じゃないかな?」
「あーなるほど! 確かに、その男性ちょっとそんな感じでした。親しげなって言うか。友達かしら? って感じな話しぶりで。だからお名前もお伺いしたんですけどね」
「うんうん。気にしなくていいよ。今度、また電話きたら適当にあしらっていいから」
「かしこまりました」
安田さんはやっぱりかしこまって、にっこり微笑むとうやうやしく頭を下げた。
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