THE DARK

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 先月、学生時代の友人数名ととあるビルの三階にある居酒屋で飲み会をした。その時入り口で、そのバーのマスターとぶつかった。  女みたいな整った顔立ち。いや、女より美人かもしれない。一瞬、そう思った。男は俺の謝罪にニヤリと笑い、ひょいと肩をすくめると地下の階段を下りて行った。  下には何があるんだ。倉庫か?  疑問に思った俺は、エレベーターへ乗り込みビルの案内版を見た。一階から三階は居酒屋。四階はスナック。地下一階はジャズバーとあった。  ああ、なるほど。地下一階にも店があるんだ。ジャズの店か。へ~。  その日は三階の居酒屋でみんなと飲み、食い、騒ぎ、二次会に男だらけのカラオケ大会へと繰り出した。  それから数日後、ジャズの店が気になった俺はもう一度そのビルを訪れた。  今思うと、俺にしては珍しい行動だった。俺はオーソドックスを好む。決して新しもの好きでもないし、既婚者の身でもあるから、出会いや刺激など欲していない。全てを捨て冒険に出たい。なんていう壮大な夢も持ってない。規則正しい生活が性にあってる俺には、サプライズは無意味だ。無意味どころか悪趣味とさえ感じる。  想定外の出来事なんて、正直心臓に悪いだけだ。  自分の決めたスケジュールを完璧にこなす。描いた通りに理想の毎日を滞りなく過ごす。それが無常の喜びだった。
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