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もらったお年玉を握りしめ
店の前に立つ。
牛一亭。創業105年という老舗洋食店だ。
A5等級和牛シャトーブリアンステーキ。350g 5万2千円。
このステーキを口にするために俺は自転車で一時間半やって来た。
シャトーブリアンとは希少部位であるヒレ肉のなかでも
さらに希少で一頭の牛から数キロしか取れない最高級肉だ。
俺と牛一亭との出会いは中学受験に合格したお祝いで
両親に連れてきてもらったのが始まりだ。
合格祝いにと何でも頼んでいいと言われ
A5等級和牛シャトーブリアンステーキ150g(2万5千円)を注文した。
口にした瞬間、筆舌尽くしがたい感動、衝撃が全身を駆け巡り涙が流れた。
美味しい。
やわらかくジューシーだが脂っこさがない。
上手く形容する言葉が浮かばない。
ただただ、涙を流しながら食べた。
それから、一日たりともシャトーブリアンステーキ
の味を思い出さない日はなかった。
俺は幼心に
高学歴、高月収な人間になったら月に1回は食べられる!
と思い必死に勉強した。
そして只今、高校3年生。
運命の大学受験を約1ヵ月前に控え
ゲン担ぎと英気を養うために牛一亭に再びやってきた。
高校生の身に5万2千円は大金だが未来への投資と考えれば安いものだ。
あの感動をもう一度。
高鳴る鼓動を胸に俺はゆっくりと牛一亭の扉を開けた。
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