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急いで家に駆け込むと、真っ先に僕は洗面所の鏡の前に立つ。
「嘘だろ?」
僕は、何度も何度も自分の頭を舐め回すように観察した。
恐る恐るそれに触れる。
どうやら何も嘘ではないらしい。
僕の頭には、正真正銘の『触覚』が生えていた。
触覚といっても、虫のような触覚ではない。
世界的に有名な、緑色で目が三つある某キャラクターの触覚と同じようなもの、といえばわかりやすいだろうか。
僕は、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
いや、もともとおかしいのだけれども。
小学6年生の頃、交通事故で両親を亡くしている僕にとって、唯一の家族であるおばあちゃんに相談してみよう。
「おばあちゃん!」
大声で呼ぶと、さっき起きたばかりのおばあちゃんは何事かという顔をしていた。
「こんな朝っぱらからどうしたの。」
僕は恐る恐る自分の頭を指差した。
「ね、ねぇ。おばあちゃんにも、これ。見えてる?」
おばあちゃんはゆっくり僕の頭を見上げた。
「あぁ。触覚だねぇ。」
おばあちゃんは、少しも驚かなかった。
「びっくりしないの?」
「輝彦は本当面白い子だねぇ。」
おばあちゃんは、それだけ言うと再びリビングに戻っていった。
僕のおばあちゃんは少し変わっている。
家に虫が入り込んでも全く驚かないし、家に泥棒が入ってきて出くわしたときは、泥棒にお茶を出したらしい。
そう、おばあちゃんはなんでも受け入れてしまうのだ。
そこがおばあちゃんの良いところでもあり、悪いところでもある。
しかし、僕がこんなにも趣味に打ち込めるのは、おばあちゃんのおかげかもしれない。
勉強ができなくても、マラソン大会がビリでも、おばあちゃんは何も言わない。
親がいなくてかわいそうと陰で言われても、そんなこと気にならないくらい、何不自由ない生活を送らせてもらっている。
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