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僕の頭にヘンテコな触覚が生えても、時間は決して止まったりしない。
刻一刻と登校時間は迫っていた。
僕は、考えた末、帽子をかぶって登校することにした。
室内では帽子を外しなさい、と、怒られるかもしれないが、今はそれしか隠す術はないのだ。
僕は、いつ買ったかも忘れてしまったキャップを深くかぶった。
鏡で見ると、制服に帽子が似合わなすぎて、少し笑ってしまった。
しかし、今年受験を控えている中学3年生の僕にとって、欠席はそう簡単にはできないのである。
覚悟を決めて、僕はこの変な装いで登校することにした。
学校に着くと、クラスメイトは僕を見て見ぬふりをした。
この格好に、疑問を持った様子だったが、そこまで親しくないため、聞くに聞けない、といった感じだ。
僕は、クラスメイトにいじめられているわけでもなく、腹を抱えて笑え合えるほど仲良くもない。
僕とクラスメイトの間には、常に一定の距離がある。
僕はその距離を息を切らしてまで詰めようとは思わない。
そりゃあ、クラスに一人くらい親友と呼べる人がいた方が、学校生活が楽しくなるかもしれない。
だが、それは僕にとっては苦痛でしかないのだ。
基本的に一人で行動している僕のことを先生は、過剰に心配をする。
そうじゃないのだ。自分とペースが合う人間がこのクラスにいなかった。ただそれだけの話だ。
僕は、かわいそうなんかじゃない。
「輝彦くん。」
朝のホームルームで僕はいきなり名前を呼ばれた。
「はい。」
「その帽子、どうしたの?」
先生は、腫れ物に触るような口調で僕に問いかけた。
「昨日の夜、頭をぶつけてしまって、傷が痛々しかったので‥‥。」
僕は、咄嗟に嘘をついた。
「そう。」
無理に帽子を取って、傷のせいでいじめに発展してしまったら、自分の責任になる、とでも考えたのだろう。
先生は、それ以上は問い詰めなかった。
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