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昼休み中、僕は一人、売店で買ったメロンパンを食べながら、触覚について考えた。
一生、帽子を被って生活するわけにもいかない。
だからと言って、こんな触覚が生えてる生徒を受け入れてくれる高校なんてあるもんか。
最悪、触覚を手術で切断するしかないか。考えただけでも、痛そうだ。
僕は、腕組みをして考え込んだ。
大抵、こういう考え事をするときは、たとえうるさい昼休み中の教室でも、何も聞こえないほど没頭するのだが、なんだか今日は周りの雑音がうるさいような気がした。
集中したくても、周りの声にどうしても気が散ってしまうのだ。
僕は、残りのメロンパンを口に詰め込んで、屋上に向かった。
屋上には、何人か生徒がいるものの、教室に比べればだいぶ穏やかだ。
天井がないだけで、心は開放的になっていた。
僕は屋上の隅の出っ張りに、腰掛けた。
出っ張りといっても、屋上は高いフェンスに囲まれているから、安全だ。
何年か前に、まだこのフェンスがない頃、生徒が屋上から飛び降り自殺したことがあったらしい。
そのため、自殺防止のフェンスを急遽取り付けたのだ。
僕は、このフェンスを見るたび、馬鹿げている、と思ってしまう。
本当に自殺したい人間は、このフェンスすらも軽々と乗り越えるだろう。
本当に目を向けなければいけないのは、こんなところじゃないだろう。もっと内部の、繊細な。
僕は、カウンセラーでもなんでもないから、なんて言葉で表現したらいいのかわからないけれど、自殺した生徒に必要だったのは、きっとこんな人工的なフェンスじゃないのだ。
僕は、フェンス越しに下を覗いた。ちょうど校庭が見える。
クラスでも明るいグループの男の子たちが、サッカーをしている。
屋上にまで聞こえる声で、笑い合っている。まるで僕とは、別世界にいるようだった。
たまに、もしあのグループの中心に僕がいたら、と考えることがある。
楽しいだろうけど、僕にはそんな大役は無理だろう。
「もう疲れた。」
そう、疲れるからだ...って、え?
突然、何の前触れもなく、誰かの独り言の声がした。
一瞬、自分の心の声か、とも思ったが、それは明らかに女性の声だった。
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