Episode1:スピカ

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心地よい春風が僕らを包み込む。 「私さ、今の自分が大嫌いなの。」 僕からすれば、どっからどう見ても順風満帆なスピカから、そんな言葉が飛び出すなんて、予想外だった。 「私、雑誌のモデルをやってるの。」 そういえば、スピカは中高生に人気の雑誌のモデルをやっている、なんて話をどっかで聞いた気がした。 「うん。」 「みんな雑誌の私を見て、可愛いね、綺麗だね、って言う。」 「うん。」 「憧れてます、なんて手紙をくれたりもする。」 「うん。」 「お母さんも喜んで、毎月私の雑誌を最低でも三冊は買ってくる。」 「うん。それの何が不満なの?」 僕は、ただ自慢を聞かされているようにしか思えなかった。 一般的な女の子が欲しいと思ってるものを、彼女は全て持っているのだ。 他に何が足りないと言うのだ。 「可愛いねって言われるたびに、違う!って叫びたくなるの。」 スピカは声を張り上げた。 そして、身震いしながら続けた。 「本当の私は、ピンクよりも青が好きだし、サラダよりもハンバーガーとポテトの方が好き。」 まぁ、気持ちがわからなくもない。 僕もサラダは嫌いだ。 「どんどん、みんなが見てる私と自分が思ってる私が、かけ離れていくようで怖いの。」 「そのうちみんなが見ている私が、勝手に一人歩きしちゃうんじゃないかって。私は、私に置いてかれないように必死にしがみついてるの。」 「うん。それで?」 「疲れちゃった。」 今まで我慢してきたものが、溢れ出したように、スピカは嗚咽を漏らした。
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