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心地よい春風が僕らを包み込む。
「私さ、今の自分が大嫌いなの。」
僕からすれば、どっからどう見ても順風満帆なスピカから、そんな言葉が飛び出すなんて、予想外だった。
「私、雑誌のモデルをやってるの。」
そういえば、スピカは中高生に人気の雑誌のモデルをやっている、なんて話をどっかで聞いた気がした。
「うん。」
「みんな雑誌の私を見て、可愛いね、綺麗だね、って言う。」
「うん。」
「憧れてます、なんて手紙をくれたりもする。」
「うん。」
「お母さんも喜んで、毎月私の雑誌を最低でも三冊は買ってくる。」
「うん。それの何が不満なの?」
僕は、ただ自慢を聞かされているようにしか思えなかった。
一般的な女の子が欲しいと思ってるものを、彼女は全て持っているのだ。
他に何が足りないと言うのだ。
「可愛いねって言われるたびに、違う!って叫びたくなるの。」
スピカは声を張り上げた。
そして、身震いしながら続けた。
「本当の私は、ピンクよりも青が好きだし、サラダよりもハンバーガーとポテトの方が好き。」
まぁ、気持ちがわからなくもない。
僕もサラダは嫌いだ。
「どんどん、みんなが見てる私と自分が思ってる私が、かけ離れていくようで怖いの。」
「そのうちみんなが見ている私が、勝手に一人歩きしちゃうんじゃないかって。私は、私に置いてかれないように必死にしがみついてるの。」
「うん。それで?」
「疲れちゃった。」
今まで我慢してきたものが、溢れ出したように、スピカは嗚咽を漏らした。
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