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「逃げないのですか」 「信じている家臣の前で背を晒す主君が何処にいる」 「……」 セロシアは静かに腰をあげると、引き抜いた菊一文字則宗を正眼の位置へと構える。 伸ばされた剣先に臆する事なくカトレアはセロシアの目だけを見つめ続けていた。 振り上げられる一振りの刀。 そして、 「お見事です」 しかし、それがカトレアと触れる事はついにはなかった。 △ 「良かったのか」 一寸の間を挟んだ後、ベッドの上へと腰を下ろしたカトレアがそう尋ねる。 「ーー私は間違っているのでしょうか」 「……」 既に菊一文字則宗を黒塗りの鞘へと収めていたセロシアは、何処か遠くを見つめながらそう言葉を漏らしていた。 カトレアは閉じていた瞳に光を灯すと、セロシアの呟きに同調するかのようにその口を開く。
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