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「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名は“カトレア・ディ・オルレアン”。オルレアン侯爵家の長女にして次期当主となる身だ」
そう言って処女雪のような白くか細いその腕を伸ばす。
しかし、菖蒲がそのカトレアの細腕を握り返す事はついにはなかった。
「……」
カトレアの顔に暗い影が差す。
「俺の名前は菖蒲。一ノ瀬 菖蒲だ」
「……あやめ」
一通りお互いの挨拶が終わった所で、カトレアがもじもじとしながら言葉の先を濁らせる。
「……その……あの……」
「あ?」
カトレアは意を決したようにそれを口にする。
「……何で私の事をカトレア・ウィザードリィの名で呼んだんだ。あの名を知っている者は限られておる。本当に何者なんだお前は」
それを聞いた菖蒲は目を丸くして盛大に笑い出した。
「……な、何を笑っているッ!!」
顔を真っ赤にして怒り狂うカトレアを、「すまない」と言ってその頭をポンポンとする事でその怒りを諫めてみせる。
「俺も自分が何者なのかいまいち分かってないんだよ。分からない事だらけで今すぐにでも頭がパンクしそうだ」
菖蒲は「でもな」と話を区切らせて、
「あの町の人々を救えた事を本当に感謝している。俺を信じてくれてありがとう。そして、これからもよろしくなカトレア」
そう言って今度は、菖蒲の方からその手を差し伸べた。
屈託のない笑みを浮かべながら。
【序章・銀色に咲く花との邂逅編 】完。
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