芦田友也の憂鬱

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 ガラガラとお店のドアを開け俺は部活から帰宅した。 「こら、友也、店の方から入ったらあかん、営業中は裏から入りなさいって、いっつも言っているでしょ!」  一番に店の中の母ちゃんが怒鳴り声が聞こえる。母ちゃんは他にお客がいてもお構い無しに大きな声を出す。  裏の勝手口から入るのが面倒臭いのでついつい店の方から家の中に入ってしまう。  それに裏口のドアは幅が狭く、カバンを肩にかけて通るといつもどこかに引っかかる。  テーブル席でお茶を飲みながら饅頭を頬張っていたお客さんが俺をちらっと見る。  俺の家は通りで「芦田堂」という和菓子屋を営んでいる。 「芦田」というのは我が家の苗字だ。  大きな銭湯の横にある小さな店だが、親父が祖父の代から受け継いでいる店で近所でも有名だ。  店の周囲は銭湯や文房具屋、めがね屋、花屋、散髪屋など店がこぞって並んでいる。  店の前の通りをさらに駅の方に進むと洞窟のような小さな商店街があって八百屋、電気屋、薬局、駄菓子屋などがその中でひしめき合っている。  幼い頃からそんな店ばっかりを見て育ったせいで俺は小学校に上がるまでは家というものは全部、何らかのお店をやっているものだと思っていた。  思い込みも甚だしい。  小学校に上がるとすぐに世の中の親たちは店をやっている人もいるが大抵は会社や役所で勤めていたりすることがわかった。それに、親によっては働いてなかったりもする。
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