芦田友也の憂鬱

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「お兄ちゃん、汗臭いよお!」  店の奥にある茶の間に入ると小学五年生の妹、智子が頬を膨らましている。  妹も小学校から帰ってきたばかりらしく自分の部屋に行かずランドセルを置いておやつ代わりのドラ焼きを頬張っている。  汗臭いのは当たり前だ。サッカーの部活を終えてきたばかりだ。 「うるせえ、ブスのくせに!」  答えになっていない返事をする。お互いに「おかえり」も「ただいま」もなしだ。  いつものように妹をブス呼ばわりしてスポーツバックを座布団の脇に置いてどかっと座った。 「また私のこと、ブス、ブスって言う!・・でもね、お兄ちゃん、ほんとに臭いんだから、私はいいけど、お兄ちゃん、クラスの女の子に嫌われちゃうよ!」  妹がむくれながら言う。 「元々、嫌われてるからかまへん」  少し気になるので腕の匂いを嗅いでみる。確かに妹の言うとおり臭い。 「ドラ焼き、お兄ちゃんの分、あるよ」  むくれながら妹が指す卓袱台の上にはもう一つドラ焼きが皿の上にのっかってる。  俺がドラ焼きに手を伸ばすと智子がお茶を入れてくれた。「ありがとう」も言わずにお茶を口にした。  いつからだろう、妹のことを「ブス」呼ばわりするようになったのは? 覚えていない。  だからといって、妹のことを今更「可愛い」というのもおかしい。  可愛い?・・いや、可愛くはないっ・・顔は丸いけど・・  茶の間のテレビは再放送の青春ドラマを映している。  ドラマの主役の熱血先生はサッカー部の顧問で毎回生徒たちの色んな問題にぶち当たっては見事に解決しドラマの終盤には適度なハッピーエンドを迎えている。  そういえば小学校の時このドラマを見て「中学になったらサッカー部に入る」と決めたんだっけ。  今、このドラマを見ていてもとてもそんな気は起きない。
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