第一ラウンド 小手調べの殺戮ゲーム 一章 手を取り合えば?

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  ◆  影間莉子(かげまりこ)は高校生だ。今年で17歳になる。  彼女には父親がいない。父親は、彼女が幼いころに病気で死んでしまったから。  それから彼女は母と二人暮らし。しかし間もなく家計は苦しくなって、彼女はある程度大きくなったとき、アルバイトに出なければならなくなった。 (学業なんて、やってられないわよ!)  なんとか一家食いつなぐため、莉子はひたすら働いた。しかしそれでも彼女の母は、莉子が高校を中退することには反対だった。  莉子には夢があったから。医者になりたい、医者になってたくさんの人を救いたい、という夢が。  莉子の母はその夢をずっと応援し、だからこそ諦めてほしくないと娘に言った。莉子だって夢を叶えたい。しかし、今のままではいずれ、生活は破綻する。  夢か、生活か。普通に考えれば生活を優先すべきだが、莉子は夢を簡単には捨てられない。だから大いに悩んでいた。 (あたしはあたしの夢を叶えたいよ。でも、そんな自由なんて)  ――なかった、はずなのに。  その日、料金請求の手紙の中に紛れていた一枚のチラシが。 『七虹異能学園 入学希望者大募集中!』  彼女の運命を変えた。  彼女には「力」があったから。異能力と呼べる力が。  幸い、それはそこまで目立つものではなかったから、彼女はこれまでずっと、そのことを隠していられた。  だが、もしも力を活用して『資格』を得られたのならば。まっとうな稼ぎ手段を得られたのならば、今の苦しい現状はきっと変わると莉子は信じた。  だから彼女は母にそのチラシを見せて、力強く笑ったのだった。 「やりたいこと、見つけたわ」  今の生活が何とかなれば、きっと医者になることはできる。莉子は学校に入学希望を出した。そして入学希望は受理された。  コードネームとコスチュームをもらい、数日経って、入学式の日が来る。  莉子は出発するために玄関先に立ち、軽く右手を上げた。 「じゃあママン。あたし、行ってくるから」 「莉子……」 「違う。もうあたしは莉子じゃない」  彼女の気の強い瞳がきらりと輝いて、自分のコードネームを告げた。 「あたしはエーテナ。自分の未来は自分で切り(ひら)くんだ」   ◆
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