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異能なんて、異能者なんて、あくまでも小説の中でだけのことだと思っていた。誰もがそんなことを信じ、当たり前の「日常」を生きていた。ある時から、実際に異能者は存在し、少しずつ増え始めているという話を彼女は聞いたが、普通に中学生をやっている彼女にとっては対岸の火事、関係のないことだった。
今日だって。
「行ってきまぁす」
「気をつけるのよ」
彼女――花咲華菜は、通学バッグを持って当たり前のように学校へ行く。彼女の家から中学校までは歩いて十分ほど。華菜は茶色のお下げを揺らして、その日も当たり前のようにして学校へ行った。
教室へ入れば。
「おはよう、信互くん」
「ああ、花咲か。おはよう」
華菜の挨拶に、信互と呼ばれた少年は軽く手を挙げる。
落ち着いた雰囲気、鋭い輝きを宿す黒の瞳。学校の黒い制服をそれなりに綺麗に着こなして、優等生にこそ見えないが、そこらの不良とは一線を画す印象のある少年。
明るい性格の華菜は友達が多いが、どこか孤独を宿す信互は名前の割には友達が少ない。
それでもそれでも。今日はいつも通りの日だった、
はずなのに。
「この数式を解いて! 花咲さん、答えてみなさい」
「はいっ!」
目の前には、ずらりと並んだ一次方程式の問題。今は数学の時間である。
そこまで難しい問題でもなかった。華菜はその答えを口にする。
「X=3です!」
自信を持って答えた、
瞬間。
日常が、当たり前だと思っていた日常が、
崩れた。
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