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グサリ。先生に突き刺さったのは、凶悪な輝きを宿す、
――刃物。
「え……」
先生の身体が崩れ落ちる。
凶悪に光る刃物を握った男が、生徒たちを睨みあげた。
次の瞬間。
「キャー! 殺人者だ! 殺される!」
「助けて助けて!」
「死にたくない!」
上がった悲鳴。生徒たちは教室の出入り口に殺到する。
しかしそういったところに限って、狭い。
刃物を握った男は生徒たちが逃げ出している入口へ向かい、握った刃物を振りかざした。
悲鳴、血飛沫。
恐怖と驚愕に凍りついた華菜は、動くことすらできないでその様を凝視するしかない。
しかし動かないのは信互も同じだった。彼は冷めた目で冷静に状況を確認していた。
男は殺す。上がる悲鳴。
華菜の口から思わず小さな悲鳴が漏れた。
そしてそれを男が聞き逃すはずがなく。
男の目が華菜をとらえた。
「……こんなところに、はぐれた奴か」
次の瞬間、男は一気に華菜に肉薄した。「やめろ」という信互の叫び声。彼は割り込もうと走ったが、間に合う距離でもない。それに彼が何か、できるわけもない。なぜなら彼は、一般の中学生にしか過ぎないのだから!
華菜の席は教室の一番後ろ、信互の席は教室の一番前。二人は殺戮が始まってから、互いに一歩も動いていない。つまり、両者の距離は絶望的なまでに離れている。
「死ね!」
迫った刃。華菜は己の死を覚悟して、それでも生きようと手を伸ばした。その手が男に触れた。
その時。
華菜を突き刺さんと迫っていた刃が、彼女に刺さる直前で止まった。華菜はパチパチと瞬きする。
華菜の手は男に触れていた。触れた瞬間、男は止まった。
男は自分を見、華菜を見、血濡れた刃物を見た。
その目からは、何故かぎらつく殺意は消えていた。
男は不思議そうに自問した。
「……自分は、何を?」
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