第1章:未知との遭遇

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第1章:未知との遭遇

大正12年9月1日。とある女学校。 「ちょっとやだ、見てごらんなさい。千種さんたら、また薄汚い格好で掃除してらっしゃるわ。」 「あらほんと、やぁねぇ。こちらにまで汚れが移ったらどうしてくれるのかしらねぇ。」 オホホホホホッと、二人組の女学生たちが廊下を突き進んで行く。 通りすぎて行く彼女たちに対し、千種と呼ばれた女学生は、もくもくと窓ガラスを拭き続けている。 心ない笑い声が聞こえなくなる頃、彼女は掃除の手を止めた。 「さぁ、次は音楽室ね。」 ___ 音楽室の扉を開ける。 当然のことながら、皆昼食に出払っているため、千種一人だけだ。 教室の隅に、茶色いグランドピアノが鎮座している。 彼女には、昼休みに行う、ある日課があった。 まず、袴の帯から懐中時計を取り出す。 父親から譲り受けた大切な品だ。 時計が示しているのは11時55分。 ピアノの譜面台に時計を置くと、鍵盤に両手を宛がう。 変ホ長調の刻みから弾き始め、やがて旋律を歌い始める。 「ゆうや~けこやけ~の、あかと~ん~ぼ~...」 夢中になって弾きうたいをしていた、その時だった。 「さあ、そろそろお昼にしないと...?」 教室のあらゆる物が揺れているのを感じた。 とっさに懐中時計を腰にしまうが、揺れはますます増えていくばかりだ。 「何?何が起きているの??」 千種は、慌ててその場に屈むことしかできなかった。 やがて、黒板の上に吊るされている作曲家の肖像画が、落ちてくるのが見えた。 「...!!」 千種の意識は、ここで途切れたのだった。
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