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一方、上野のとある喫茶店。
「和くん。そろそろ時間だから、お店閉めちゃってちょうだい?」
「はい。わかりました~。」
女主人から、和くんと呼ばれたアルバイトの青年は、テーブルの掃除に勤しんでいた。
(あ~。今日も働いた働いた。さっさとお店閉めて帰ろう。)
やがて閉店の時間となり、店じまいをするために店のドアを開けたその時だった。
桜色をした袴姿の少女が、店の前に座り込んでいたのだ。下を向いて俯いている。
青年は、一瞬あわてふためいた後、少女の肩を優しく叩いてみる。
「あの、すみません。お客様でいらっしゃいますか?」
少女は寝ていたようで、はっと目を覚ました。
「...はっ、失礼いたしました!」
「丁度今、閉店のお時間なので、これから閉めてしまうんですが...」
「すみません。1つお願いがあります。」
「はい?なんでしょう?」
「...私には、お金がありません。住む場所もありません。着るものももちろんこの袴だけです。」
「えっ...」
すると少女はアスファルトに両ひざをつけ、両手を張り付け、頭を下げる。
「迷惑を承知でお願いします!なにか食べるものを下さい!そのかわりなんでも言うことを聞きます!」
ぐぅ~~っと、少女のお腹が悲鳴をあげたのだった。
これが、少女と青年の出会いである。
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